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MOMもるひ | ラグナロクオンライン日記ROブログ俺と奴とのRO事情02 ~ぽりんしかないな~

いつもどこでも同じようなことだったが、俺たちは戦い慣れた狩場でがむしゃらに剣を振るい、部屋の隅で膝を抱えてぶつぶつと呟くように魔法を唱え、激闘の最中を踊ったり跳ねたり必殺技を繰り出して見せ場を作っても誰も見てる奴いないだろうと自虐的な満足感に浸りつつも、なにか貴重なアイテムが落ちてこないものだろうか、もし落ちてきたらアレもコレもソレもドレイも買い占めて贅沢三昧でモテモテだと、棚からボタモチな皮算用をしていたのだが、いきなり奴が左斜め45度後方にすっ飛んだ。
「ぬぅ」
手痛い打撃を食らった奴は、呻きながら杖をついて立ち上がった。
「気をつけろ。このオレの鍛え抜かれたボディをまるで折って畳んだ紙飛行機のように天高く吹き飛ばしやがった。並大抵の腕力ではない、まさに神クラスだ」
「紙装甲の貴様の台詞ではないな」
俺は冷静に剣を構え、目の前の魔物と対峙した。まだ退治はしていない。
すごく強そうな魔物だった。俺的すごいランキングの王座に君臨しているといってもいい。こいつを倒したら英雄として首都プロンテラに凱旋を強行する。
街中を覆い尽くす拍手喝采、花束とギャルの接吻が飛び交う中、俺はお立ち台で鮮烈なヒーローインタビューを繰り出す。「あんなやつ、ポリンだったさ……」と右斜め45度のカメラ目線で髪をかき上げ、古今東西東奔西走、乙女のハートを愛のキューピットよろしくダブルストレイフィングで撃ち抜くのだ。
「しかしながら、こいつはまったくもって相手が悪い。さすがの俺も武者震いを遙かに超越した悪寒がやめられない止まらない。あの曲線美を極めた体にして、あの面妖な挙動。こいつはまるで??」
ポリンだった。
暖かな日差しが振り注ぐ中、ピンクの球体がふよふよと蠢いていた。緑の草原との色彩コントラストがメルヘンチック級の穏やかな光景とほざく連中も存在するが、俺たちには恐怖の対象でしかない。
「絶えず脈打つ体から放たれる針のように研ぎ澄まされた殺気、極彩色ピンクの悪しき思念体。勝てるのか、こいつに……」
じりじりと間合いを詰める気配に気付いたのか、ポリンが振り返った。
底の見えない禍々しい黒い眼に見据えられ、背筋がフロストダイバー。
腰が引けたままなのも気が引けたので、俺は精一杯の虚勢で啖呵を切った。万が一の事故に備えて、背後にタンカも用意しておく。
「ここで遭ったも何かの縁、まさに地獄の一丁目。弾けるその身を覚悟しろ、ピンクの飛沫を撒き散らし、おとなしくゼロピーをよこすがいい!」
天を突くがごとく剣を振りかぶった、そのとき。
「なにやってるんですか!」
 突如、制止の声が振り落とされた。凛とした声に、俺たちは身をすくめてきょときょとと周囲を見回して「何者だ!」と悪役のように強気に振る舞った。
登場したのは、アコライトの少女だった。
「私のペットになにしようとしてたんですか!」
その少女はポリンに駆け寄り、ぎゅっと愛おしげに抱きしめた。
人間やめてポリンになりたいと思ったのは、今日がはじめてではない。
「いや、いじめるだなんて。それは大いなる誤解さ」
奴が紳士的に前に進み出た。
「オレが落としたゼロピーを、その子がうっかり誤って食べてしまってね。しっかり謝って早急に返していただきたく、パワフルにシャッフルしてみたかっただけなんだ」
アコさんと奴の距離が5セルほど開いた。
「そんな邪険にしなくてもいいじゃないか。ここで会ったもなにかの縁。まさに天国への階段一段目。本能と煩悩に翻弄されて激烈ハッピーにならないか」
奴の投げキッスはニューマの霧で防がれた。
完全に拒絶されてふて腐れた奴を尻目に、俺は素朴な疑問を発した。
「そのピンクの物体は君のペットといったな。普段はどんなものを食べるんだい」
「ゼロピーとか食べます」
「そうだろう。あれが好物らしいからな。俺は常々疑問に思っていたのだが、あのいぶし銀の固形物、本当にうまいのか」
奴が左斜め後方から割り込んできた。
「右と同じく、オレもそれが不可解な点だった。オレはマジシャンだ、世界の謎を解明するのが使命だと言わんばかりに道端に落ちていたゼロピーを口に含み、爽やかにはにかみながらも官能的に甘噛み、唾液をまぶして何度も何度も反芻しつつも、ついには吐き出した。そう、こいつはオレに扱えるレベルではなかったのだ。無惨にも地面に打ち棄てられたゼロピー、それを突然横沸きしたそのポリンが……食ったんだ! さもうまそうに! むしゃむしゃと!」
アコさんは真っ青になって、ポリンの体をシャッフルした。吐かせそうとしているらしい。
「君、その行動は自分の所有するペットに対して酷い仕打ちじゃないかい。飼い主の風上にも置けないぜ、もしや飼い主に似てそういう趣味かい。マゾか何かか、俺はマジシャンだが」
奴が冷酷にも指摘したので、アコさんは泣きそうな顔で逃げ出した。
そして近くにいたブラックスミスの女性に抱きついて泣きつくのだ。
「助けてお姉さま! あの人たち変態です!」
そう言ってポリン級の胸に顔を埋める少女。男やめてアコさんになりたい。
事情を聞いたブラスミさんは肩を大きく回して凶悪そうな鈍器を取り出した。鈍器片手に仲良しこよしの対談を続行するのは無理がある。友好的な雰囲気ではなかった。アドレナリンその他もろもろの物質が大量に分泌して体内を駆けめぐってる感じだ。
俺はといえば体中の汗腺から冷や汗を吹き出しつつ、冷静至極、剣の柄に手をかけた。
「女子供に手をあげるのは俺の流儀に反するのだが。やむをえまい、どちらが正義かをわからせてやろう」
歩み寄るブラスミさんは、手持ち無沙汰に手頃な岩をハンマーで打ち砕いた。
「ふ……繰り返し宣言するが、女子供相手に手をあげるのは俺の流儀ではない」
思いっきり両手をあげて降参したのだが、俺のポーズを戦闘体勢の一種と思っているのか、ブラスミさんの殺気が衰えることはなかった。
もうダメ絶体絶命のピンチだと覚悟を決めた瞬間、俺の全身が燃えさかるように熱くなった。
火事場というか死に際の馬鹿力でも自動発動したのだろうか。アドレナリンが全身を駆けめぐり、血液が沸騰してコーヒーを淹れられるかと思うほどだ。俺の内部で何かが覚醒したのだとマジで確信したのだが、実はというと、奴が左斜め45度後方からファイヤーボルトを食らわせてきたのだ。マジの確信犯だ。
「なにをする貴様。悩ましげに悶えるくらい熱いぞ」
「冥土の土産に教えてやろう。輝かしい戦い歴史も、語り継ぐ者たちがいなければ無となる。オレは貴様の尊い犠牲を胸のポッケにこっそりしまい込んだまま永久に封印し、ゆりかごから墓場まで安穏の生活を満喫してやるのだ……!」
「なにぃ。裏切ったな貴様。くそぅ、体が焦げる。このままでは真っ黒い炭になる。黒炭だ。そんなのブラックスミスの方が適任じゃないのか。あまりにも不条理だ」
 煙をあげて地面に倒れ伏す俺をせせら笑いつつ、奴は女性陣に対して両手を開き、人畜無害のナイスガイとばかりに爽やかなスマイルを浮かべた。
「オレは君たちの味方さ。見よ、大いなる悪の権化は紅蓮の炎で焼き尽くされた。正義の使徒にしてか弱きレディ達よ、安穏の地は我が手中にあるといっても過言ではない。さぁ、遠慮せずオレの胸に飛び込んでくるがいい!」
お言葉に甘えて痛烈な鈍器ラッシュが奴の体に降り注ぎ、キラキラと輝かしい戦績と鮮血を吹き飛ばしながら、奴は青空をバックに錐揉み飛行でスパイラルピアースのごとく地面に突き刺さったのだった。



ぼろぼろになって街の外に放り出された俺たちは、仰向けになって倒れつつ、沈みゆく太陽を見つめてネタも煮詰まっていた。夕日に照らされ真っ赤っかに染まる以上に血染めな俺たち。口を動かす気力もなかったので黙っていたのだが、そのとき、何者かの禍々しい気配が近づいてきた。
軋む首を無理矢理ねじってみると、そこにはポリンがいた。
「なにを見ている。俺たちの姿がそんなに滑稽か」
さっきアコさんと一緒にいたポリンと似ていた。同一の個体かもしれないが、どれがどうハンサムだとか見分けが付くわけがない。
「おかしいか。笑えよ。腹皮が裏側によじれるほどにな。そうか、腹が減ってるんだろう。今ならこのとおり無防備だ、無様に抵抗する気力もない。遠慮なく食すがいいさ……食えよ、さぁ食えよ! むしゃむしゃとむさぼるがいいさ!」
その懇願をまったく無視して、ポリンはなにかを吐き出した。
ゼロピーだった。
「……。くれるのか」
ポリンは黙って去っていった。『プレゼント・フォーユー』……そう語りかける後ろ姿が、あまりにもダンディだった。
銀色に光る物体を間に挟み、俺たちはふっと悟った笑みを浮かべた。人外ポリンに同情され、人間やめたくなってきた。が、せっかくの贈り物を無視するのも気が引けたので、奴に押し付けることにした。
「貴様、食ってみろよ。むしゃむしゃとうまそうに食ってみろよ」
「何をほざく。オレはすでに勇猛果敢にも唾液をブレンドした輝かしい経歴がある。まだ未経験のお前に両手放しで譲るのが永遠のフレンドではないか」
「一度の経験に味を占め、まだ同じ過ちを繰り返す気にはならないか」
「間違いなのか、罪なのか。ゼロピー食うのは犯罪か」
「歴史は時として残酷だ。遠い未来の我々から見れば賞賛すべき行為に対し、異端とばかりに弾圧する世論が勃発しうる。つまり貴様の行いは一見して愚行であるが、わずか数年のうちに永久に語られる英雄となろう」
「そいつはいい、オレ最高。まさに一世風靡の電光石火だ。オレは夜空にまたたく星となり、夜な夜な窓際のレディにきらびやかなウィンクを繰り出す。そして、うっとりしっとりと頬を染める淑女の皆様のリクエストにお応えして、すぐさま一撃必殺の流れ星となるのだ。闇を切り裂く一条の光は乙女の心で鮮烈デビューを果たし、生涯を通して忘却不可能な一大シーンとなることだろう。今この一瞬から、オレの腐れた未来は180度の変貌を遂げるのだ!」
自己のフューチャーに光明を見出した奴は、武者震いで小刻みに揺れる指で巧妙にゼロピーをつまみあげた。そのまま飲み込むと思ったら、なにを思い直したか、ひょいと胸のポッケにしまい込んでいた。目にもとまらぬ手品師のような早業だった。ただのマジシャンのくせに生意気だ。
「ふっ。血と涙と唾液まみれの戦歴を一瞬で消化するなど、まさしく歴史に対する愚弄だ。この銀色固形物はオレのハートを熱くするメモリーの欠片として、いずれ太陽のように放射線を四方八方に放射することだろう。オレの未来は明日に架ける虹の橋、まさに夢色スペクタルさ」
「腰抜けめ。デンジャラスな状況をうまく誤魔化したようにしか見えん」
「なにをいう。たまたま夢と希望で胸と腹がいっぱいだっただけだ」
そう強がる奴の腹の虫が、一匹オオカミの鳴き声のように情けなく空に響いた。
「……。世間には黙っててやる。食えよ。遠慮なく食えよ」
俺はつぶやき、ふっと右斜め45度のダンディを演じた。
奴が本当にゼロピーを消化したのかは、俺の知るところではなかった……。
思い出にまみれたゼロピー、1個獲得。





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2005-05-04 | RO小説コメント : 8トラックバック : 0
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開設おめでとうございます~。
待ちに待った小説の更新がっ・・・
おもしろかったです(*´ω`)b
これからもがんばってくださいな。
2005-05-05 09:23 : ひねりファン@iris URL : 編集
偶然訪れて読んだらツボりました…w
応援してまっす!
2005-05-05 16:49 : EWIG URL : 編集
この独特のテンポ。とてもいい感じですむしろ惚れた。
がんばってください超がんばれ
2005-05-05 22:39 : 通りすがり URL : 編集
>ひねりファン@irisさん
開設祝いありがとー。とりあえずもるひのファンになれ(何)
小説、お待たせいたしマシタ。じわじわと楽しんでクダサイ。
そして次はいつだろう…。
>EWIGさん
もるひデス。偶然からはじまるステキな出会いもありマス。
もるひの文章は一回ツボにはいると次はみぞおち辺りにヒットしマス。
期待しつつ応援してクダサイNE☆
>通りすがりさん
この電波系テンポがもるひ文章の極致でゴザイマス。
惚れてくれてアリガトウ、火傷するから超がんばれ。
2005-05-06 01:54 : moruhi URL : 編集
開設おめでと~ございます~。
移転前からファンデスタ(´ω`)
ただ鯖が違うためにもるひさんと草争奪戦ができないのが残念無念また来週orz
小説の最後に手に入れるアイテムがなんだか哀愁ただよっててイイッスネΣ(゚Д゚)
これからもがんばってください~
2005-05-28 06:24 : 戒 URL : 編集
ゼロピーをむさぼり食うツンデレ系イケメンが
男女を問わず注目を集めている06年のバレンタインデーに、
彼らは何を思うのでしょう…
2006-02-16 00:19 : 半年以上も前の話ですが、 URL : 編集
昔はゼロピ食えたんですってね……
知り合いの年寄りから聞いたとき即効でこの話が思い出されました。それで感想書きに。

馬鹿でノリ良いこいつらの話、まだまだ見てみたいです。
そして変にダンディにキメていったポリンに乾杯。
2006-03-17 02:17 : 頭文字だけ同一鯖の騎士 URL : 編集
むかし、むかしには
すべてのアイテムが食えたそうだ
2010-02-07 12:14 : 名無しさん URL : 編集
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もるひについて

もるひ Author:もるひ
・RO【Olrun】在住(※元Iris)
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